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2020年3月11日水曜日

『へレディタリー/継承』した後にどう生きるか?

最寄りの映画館でアリ・アスター監督の『ミッドサマー』の上映が始まった。かと思ったら、どうやらすぐに上映終了してしまうようだ。前作『へレディタリー/継承』の評判も良いし観に行きたいが、前作もまだ観ていない。前作を観て準備万端で挑もうと映画を観る隙を伺うも、うちでホラー映画に興味があるのは私一人なのでなかなか機会が巡ってこなかった。先日ようやく観ることが出来た。

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妻が寝たあとで、灯りを消した部屋でヘッドホンをつけ、一度も映画を中断することなく観れたのは、自宅でホラーを観る環境としてはこれ以上ない条件だと思う。

怪現象の原因はなんなんだ?

ホラー映画では、必ず怖いことが起こる。では、怖いことは何故起きるのか。 その理由はそれぞれの映画によってさまざまであって良いのだと思うのだけど、この映画の特徴の一つは、怖いことが起こる理由が最後に明かされることだろう。 例えば、狂った一家に出会ったことがきっかけで恐ろしい目に遭うこともあれば、悪霊を復活させてしまうことで惨事に巻き込まれることもある。他にもこのように禁忌に触れることによって引き起こされる恐怖を描いた映画は多いが、いずれも禁忌を破った時点で怖さの原因が判明する。

最後に種明かしをする映画がないかといえばそうでもない。『シックス・センス』では最後の最後で主人公が恐ろしい目に会ってきた理由が明かされている。

原因が継承されている?

タイトルにもなっているように、もう一点の特徴は怖いことが起こる原因の継承の仕方だろう。

観る前には継承というタイトルから、祖母に取り憑いていた悪霊が家族の誰かに取り憑くものかと想像していた。想像していた内容と映画の内容とで、それほど相違はないように思えるが大きく違うのは、原因に捉えられたときに死ぬか否かの違いだ。殺人鬼であれ、悪霊であれ、狙われた人物は捉えられたときに殺される。そして殺人鬼の対象は次へと移る。しかしながら、この映画では捉えられたときに死ぬことが出来ない。

映画内では描かれていないが、捉えられた後に今までとまったく違う生き方を肯定的に捉えられなければ死ぬまで辛い時間を過ごすことになる。死が救いとならないのだ。

恐ろしいことが起こったその後

恐ろしいことが起きた。 今までと違った価値観を生きることになった。今までとは違うが、まわりには祖母と母もいる。そのような今まで想像もしなかった環境に置かれたとき、どのように生きていくか、そう問いかけるような映画ではないだろうか。

2016年9月28日水曜日

殺されるより怖い『イット・フォローズ』。

僕が住んでいる町は山に囲まれているため、新しい情報を得られるような場所は図書館か駅前の本屋かレンタルビデオ屋に限られている。その日もGEOで何かとの出会いを求めていた私は、『イット・フォローズ』のジャケットと出会った。
アメリカの田舎の住宅街を背景にしたような表紙に、”それ”のルールがショッキングピンクで書かれていた。

”それ”は人からうつすことができる。
”それ”はゆっくりと歩いてくる。
”それ”はうつされた者にしか見えない。
”それ”に捕まると、必ず死ぬ---

この設定の”それ”がいたとして、どうやって主人公たちは対処するのか?いかにして設定に気づいていくのか?どんな工夫で乗り越えるのか?
早くもこの設定に囚われてしまった僕にはもう借りるしか手がなかった。

私は追われているのか

”それ”に捕まってしまえば必ず死ぬ、というのは映画の冒頭で示されるように確実なことのようだ。
殺されること以上に、追われているかわからないことがこの映画では恐怖を生み出している。
”それ”はうつされた者だけにしか見えない、というルールは厳密には少し違う。”それ”を一度うつされたあと、他のひとに”それ”をうつして、もう追われていないはずの人にも見える、という備考がつく。”それ”はいつも違う人間の格好をしており、時にはすぐに人間でないと気づくような姿をしているときもあれば、すぐには人間と区別がつかない姿のときもある。見知らぬ姿をした人物は”それ”の可能性があるのだ。
上記ルールから記載が漏れているもう一つのルールがある。”それ”をうつしても、うつした相手が死んだ場合、”それ”の対象はまた自分に戻ってくるというルールだ。うつした相手の生死がはっきりとわからない場合は、”それ”がふたたび追ってきている可能性を否定できず、一度”それ”をうつしても安心出来る日はこない。

彼女を愛しているのか

もう一つの恐怖がこの映画には映し出されている。
セックスによって”それ”はうつる。
この映画はアメリカの田舎町を舞台に主人公たち、ティーンエイジャーの姿を描く。恋愛もやはり大きな割合を占める。
主人公の少女ジェイに思いを寄せる、冴えない青年ポールがいる。ポールはジェイを助けるため、”それ”がうつる覚悟があることを示してジェイを誘う。ポールはジェイが自分のことに興味がないことを知っていながら”それ”のおかげで自分の欲望を満たしているということに気づいているようにも見える。主人公を救うという正義感でその気持ちに気づかないふりをしているようにも見える。その後、ポールが娼婦街を車で巡回していることから、”それ”を娼婦にうつすつもりなのだろうとわかる。
ポールはジェイの愛を、他人の命を脅かすことで得ようとしている。
そして、ジェイも、ポールに他人に”それ”をうつさせることを前提にしている。
このルールのもとでは、愛の形は変わってしまい、もとには戻れない。
愛しているのかどうかわからなくなってしまっている。
映画の終わり、手を握って歩く二人の姿に幸せそうな雰囲気はない。
殺されない人生のほうが辛いのがこのルールの怖いところだろう。

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