2022年12月14日水曜日

『異常 アノマリー』を読んでも異常さは感じられなかった。

エルヴェ・ル・テリエ著『異常 アノマリー』を読んだ。 しばらく前に新聞の書評で知って気になっていたのだけど、紀伊國屋書店で全面カバーされているのをみて、そこまでお勧めするならと読む気になった。最近の読書傾向とは少し違う、軽い気持ちで本を読みたいなと思っていたのも、後押しになったかな。

小説の形式と小説内で起こること

何人かの登場人物がそれぞれの人生を歩んでいる中で、共通の出来事を体験し、その後の人生が大きく変わってしまう、というのが話の大枠となる。

ある飛行機が嵐に見舞われ、嵐を抜けると三ヶ月経っている。

飛行機に乗っていた乗員乗客が、三ヶ月前の自分として現れる。まったく同じ時間を経験した自分が現れるのではない。三ヶ月間の時間のずれがあることで、登場人物たちに起こった、あるいは起こらなかったことが、それぞれ異なり、人生に影響を与えてゆく。わずか三ヶ月の違いであらわれる、運命のようなものを楽しむことが出来るか否かでこの小説への評価は変わってくるだろう。

必然性が足りていない

三ヶ月前の自分と現在の自分との間で、どのように折り合いをつけていくのか、というのが小説の後半部分の中心となる。三ヶ月の間に起きた、生と死、別れと誕生、やり直すことの出来ない事柄。 登場人物たちが、その組み合わせのために存在しているように思えてしまい、それ以上の存在理由が見いだせないな、というのが率直な感想だ。各登場人物の話が進んでいき、もう一度一点に集約する展開があれば、物語上の必然性をより感じることが出来るかもしれない。

展開してほしいのは

展開して欲しかったのは、この物語の核をなす、シミュレーション仮説だったのだと思う。

物語の中心となった飛行機以外にも、過去に別の飛行機もどうように三ヶ月後に現れたことが明示されている。そして乗客の命に関しては保証されていないように暗示されている。にも関わらず、最後の展開がなされると、設定としても腑に落ちない。

あまりハードSFになりすぎると、軽く読むという当初の目的からずれてしまうので、これで良かったのかもしれない。