2016年7月14日木曜日

女を中心に『スカーフェイス』を読み解いてみた

大学からの友人が「生涯で一番好きな映画はScarfaceだよ」というので、GEOで借りてきて観てみたのだけれど、これはどういう映画なんだろうというのが最初の感想だった。

話の流れの振り返りと2つの疑問点

キューバからやってきたトニー・モンタナが麻薬密売で成り上がるギャング映画、というのがおおまかなお話だろう。はじめは下っ端に過ぎないトニーが、仲間を殺されたり、ボスを蹴落としたりしながら、ギャングのトップに成り上がって、最後は殺されてしまう。ああ、やっぱりまっとうな死に方は出来ないんだな、そういう教訓的な映画なんだな、というのが最初の感想だった。どうにもそれだけでは解せなくて、よくよく振り返ってみるとトニーの行動で2つの疑問点が浮かび上がってきた。

大事な仕事なのに、ターゲットと妻子が一緒で殺せない

疑問点の1つ目は、トニーがもう成り上がっていて大麻の取引をしている仕事仲間から口封じを頼まれたときに起こる。取引先の使いとトニー達で、ターゲットを始末しようと車に爆薬を仕掛けて、さあ後は起爆装置を押すだけ、というところまで準備してホテルの入り口でみんなでじっと待ってる。そこに、いつもは一緒に車に乗らない妻子も同じ車に乗ってくる。トニーは女子供は殺せないと言い、起爆装置を起動しようとする取引先の使いを撃ち殺してしまう。この事件がトニーが殺される直接的な原因となる。
女子供は殺さないという気持ちはわかるんだけど、ここでやらないと後々大変なことになるぞ、ってのは観客だけでなく、車に載ってるトニーの仲間全員がわかってる。ギャングとして成り上がるなら、爆破が優先されるんじゃないの?という疑問が湧いてきたんだよね。

 妹の恋人を撃ち殺す

2つ目は、妹の恋人である仲間のマニーを撃ち殺してしまう点だ。ターゲットを爆破出来ず仕事で失敗して帰ってきたトニーは、留守中に仕事を任せたマニーを探す。そして妹の家に行き、幸せそうな妹とマニーを見て、玄関に出てきたマニーを撃ち殺す。妹の幸せを願う描写は繰り返し描かれているし、マニーも弟分のような仲間で、妹とくっつくことは物語の展開上必然的に思える。幸せそうな二人を見てるんだから、騙してるとかではなく本気だということはわかるだろう。
留守中の仕事を任せたにも関わらず、連絡が取れなくなったというだけではマニーを殺す理由にならないだろう。妹の幸せを願うなら尚更、マニーを殺す理由が見当たらない。

2つの疑問点の共通点は?

トニーはギャングとして成り上がるために、人を殺すことも厭わずにけっこうな悪事に手を染めているように見えたんだけれど、その中での女子供は殺さない発言には驚いた。成り上がるためならなんでもするものだと思っていたからだ。ギャングとして成り上がるよりも大事なものを垣間見せた場面だと思う。そうすると、そこからマニーを殺した理由も見えてきて、妹はギャングとは関係ない世界で幸せになって欲しかったのに、マニーが妹をギャングの世界に引き込んだことが許せなかったんじゃないかと思うんだよね。
トニーが惚れる女はもともとボスの女で、ボスを殺して女を手に入れている。トニーが惚れた女はすでにギャングの世界だから惚れて一緒にいても構わないということになるんじゃないかな。

こんな映画なんじゃないかな

幸せになって欲しい妹にはギャングの世界には関わってほしくなかった。そしてトニーはギャングの世界にいた女を妻として、去っていっても追いかけはしなかった。トニーはギャングの世界に幸せを見出してはいなかったということなのではないか。本心からギャングになりたかったんではなく、ギャングになるしか生きる道がなかったんじゃないかと。
ギャングになるしか行きられないような、歴史に翻弄されたことを示しているのが、冒頭に出てくるキューバの歴史の問題なんじゃないかな。ギャングの成り上がりの話であれば、歴史的な背景は必要なく、ギャングの世界だけを描いていてもいい。だから、この映画は教訓的な映画ではなく、歴史に翻弄された悲しい男の映画なんじゃないかと思うんだ。