農作業をしているときに点けているラジオから、日本だけでなくアジアの納豆のことも書かれた本があるという話が耳に入ってきた。納豆は日本固有の食べ物だという思い込みがあったが、私が知らなかっただけなんだと気付かされた。それが高野秀行さんの『謎のアジア納豆』との出会いだった。高野秀行さんの『未来国家ブータン』をちょうど読み終えたときで、ブータンと同じように私の知らない納豆を見せてくれるんだろうと、すぐに手にとった。
本を読んで二ヶ月後、タイの北部の都市チェンマイへお祭りを観にいくことになった。知り合いのタイ料理屋の常連さんたちがタイ周遊旅行をするというので私たちも便乗させていただくことにしたのだ。タイには一度行ったことがあるが、今回は周遊旅行ということもあってチェンマイ、スコータイ、パタヤをまわる。個人ではなかなか実現できない旅程である。
旅先で何をしようかなと考えているときに、ふと『謎のアジア納豆』を食べようと思いついた。
チェンマイ到着早々、私たちは市内にあるシャン料理店「フン・カム」に出かけた。
高野秀行『謎のアジア納豆 そして帰ってきた<日本納豆>』新潮社、2016、48頁
チェンマイ到着早々、私たちも Hearn Kharn へ出かけた。はじめてのチェンマイで相乗りバスの乗り方もおぼつかないが、堀の北にある市営競技場の近くで降ろしてもらい、妻と二人で歩いて店へ向かう。大通りから一本入った道は街灯も少なく暗い。いくつか交差点を過ぎると、長屋のようにいくつかお店が入っている建物に二軒だけ電気が点いている店があった。そのうちの一つがフン・カムだった。
テーブル席は四卓で私たちが最初の客のようだった。料理写真のついたメニューを見て悩んだ結果、納豆ペーストとタマリンドの葉のサラダを注文した。納豆料理をあてに飲もうと思ってきたが、アルコールは置いていなかった。それならばと、納豆に合わせてもち米を注文した。
納豆でお腹も膨れてしまったが、チェンマイ最初の夜だ。屋台でシンハを飲みたい。私たちは店を出て、シンハの飲める屋台を探しに、まだ賑やかなチェンマイの夜の街へ戻った。