2018年7月25日水曜日

旅するように『都市と都市』を読んで

チャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』を読み終えて、同じように街を舞台としたの『都市と都市』を読み始めたら、まったく違う切り口で驚いた。

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)
チャイナ・ミエヴィル
早川書房
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なぜ旅行をするのか

旅行が好きだ。旅行先の地のものを食べたり、その土地の文化を感じることも好きな理由の一つだが、一番の理由は自分が住んでいる環境との違いを知れるからだと思う。生活している環境が当たり前になりすぎると改めて見つめ直す機会がない。旅行に行くと否応なく自分の世界と旅行先の世界の違いに対面することになる。
どちらの料理や文化が好みなのか優劣をつけるのではなく、今まで気にもとめずにいた事柄に対し、新しい視点を与えてもらえたとき、旅行をしてよかったと思える。
では、『都市と都市』では、どのような視点を与えてくれるのか。

『都市と都市』で描かれる視点

『都市と都市』の舞台である架空の都市、べジェルとウル・コーマは、物理的に隣り合っている。
国境を超えて、あちら側を見ることは違法になる。もちろん、国境を超えてもいけない。

訪問者は、最低限の概略、すなわち、建造物の標識、服装、アルファベット、マナー、怪しい人間の外見や身ぶり、義務の詳細ーそして、べジェル人の教官によっては、国の特徴として優れていると思われる点などーさらに、べジェルとウル・コーマ、及びその市民の差異を覚えることになる。

チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』ハヤカワ文庫SF、2011、127頁

にも関わらず、複雑に入り組んだ国境を知る術は、上記のようにあちら側を見るしかない。
べジェル人やウル・コーマ人は、あちら側を見ないようにしつつ、国境を超えないよう生活している。

その視点は『都市と都市』の外には存在しない

もちろん、この視点は『都市と都市』の外の世界には存在しない。まったく荒唐無稽な視点だ。
もし、べジェルとウル・コーマが存在するとして、私が二週間のトレーニングをして入国したとしても、べジェル人とウル・コーマ人のようにあちら側を見ないようにすることは出来ないだろう。
この視点を持ちたいのではない。
このような視点がありうること、別の思いもよらない視点が現実にもある可能性が、『都市と都市』を読んでいる間に感じていた面白さではないかと思う。
今、一番行ってみたい都市。

2018年1月22日月曜日

チェンマイで『謎のアジア納豆』を食べてきた。

農作業をしているときに点けているラジオから、日本だけでなくアジアの納豆のことも書かれた本があるという話が耳に入ってきた。納豆は日本固有の食べ物だという思い込みがあったが、私が知らなかっただけなんだと気付かされた。それが高野秀行さんの『謎のアジア納豆』との出会いだった。高野秀行さんの『未来国家ブータン』をちょうど読み終えたときで、ブータンと同じように私の知らない納豆を見せてくれるんだろうと、すぐに手にとった。

本を読んで二ヶ月後、タイの北部の都市チェンマイへお祭りを観にいくことになった。知り合いのタイ料理屋の常連さんたちがタイ周遊旅行をするというので私たちも便乗させていただくことにしたのだ。タイには一度行ったことがあるが、今回は周遊旅行ということもあってチェンマイ、スコータイ、パタヤをまわる。個人ではなかなか実現できない旅程である。
旅先で何をしようかなと考えているときに、ふと『謎のアジア納豆』を食べようと思いついた。

チェンマイ到着早々、私たちは市内にあるシャン料理店「フン・カム」に出かけた。

高野秀行『謎のアジア納豆 そして帰ってきた<日本納豆>』新潮社、2016、48頁

チェンマイ到着早々、私たちも Hearn Kharn へ出かけた。はじめてのチェンマイで相乗りバスの乗り方もおぼつかないが、堀の北にある市営競技場の近くで降ろしてもらい、妻と二人で歩いて店へ向かう。大通りから一本入った道は街灯も少なく暗い。いくつか交差点を過ぎると、長屋のようにいくつかお店が入っている建物に二軒だけ電気が点いている店があった。そのうちの一つがフン・カムだった。
テーブル席は四卓で私たちが最初の客のようだった。料理写真のついたメニューを見て悩んだ結果、納豆ペーストとタマリンドの葉のサラダを注文した。納豆料理をあてに飲もうと思ってきたが、アルコールは置いていなかった。それならばと、納豆に合わせてもち米を注文した。

奥の厨房からは炒めものを作っている音が聞こえてくる。しばらくすると注文の品が運ばれてきた。納豆そのものは日本の納豆と変わらない。納豆ペーストは、玉ねぎと香辛料と一緒に炒めた温かい料理で、日本の納豆パックを3パックは使っているのではないかという量だ。嬉しいのだが、納豆3パックは夫婦二人には少々手に余る。それでも美味しいので完食してしまった。
納豆でお腹も膨れてしまったが、チェンマイ最初の夜だ。屋台でシンハを飲みたい。私たちは店を出て、シンハの飲める屋台を探しに、まだ賑やかなチェンマイの夜の街へ戻った。

チェンマイ アパート日記。
なかがわ みどり ムラマツ エリコ
JTBパブリッシング