2016年2月20日土曜日

『がっこうぐらし!』で由紀が見ているものは何なのか?

アニメ『がっこうぐらし!』を観た。
日常系アニメかと思ってほのぼの見てたら、ゾンビが出て来て意表を突かれたけど、
やっぱり日常系ほのぼのアニメだったな、という感想を書いてみる。
がっこうぐらし! TVアニメ公式ガイドブック 学園生活部活動記録 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)
原作:海法 紀光(ニトロプラス)×千葉サドル 編:まんがタイムきらら
芳文社 (2015-12-12)

ゾンビがいるのに日常系 

アニメのジャンルには詳しくないけど、『がっこうぐらし!』は日常系アニメに入るはずだ。 学園ものだし、女の子たちが仲良くしてる光景が描かれてるし。
ニコニコ大百科では日常系はこんな風に定義されている。
劇的なストーリー展開を極力排除した、登場人物達が送るゆったりとした日常を淡々と描写するもの 
うーん、「劇的」とか「淡々と」あたりが当てはまらないかな。
ゾンビに関しては、発生後はゾンビは日常の風景となるから日常を描写してると思うんだよね。 ゾンビはモンスターの中では淡々としてる方だし。
今までのゾンビものだと、ゾンビが発生したらどう対応するかっていうのに主眼が置かれていたんだよね。 逃げたり、手なづけたり、治療薬を探したりとか。 それらが物語の推進力になってた。 けど、『がっこうぐらし』では対応は二の次なんだよね。 けっこう簡単にゾンビとの距離を取れてるように見える。食料もあって当座の生活には困ってないしね。
じゃあ、何を優先しているのかというと、由紀の日常を守ることを優先してる。
だから『がっこうぐらし!』は(定義とは少しずれるけど)日常系に入ると思う。

守られる日常

ゾンビが現れて、仲良しだった先生も死んでしまっている。
学校で友達と暮らしているのは学校生活部の部員だからと思っている由紀は、絶望的な現実を受け入れられていない。すでに数人の友人以外はゾンビとして学校の周りを徘徊しているんだけれど、由紀にはその姿は見えずまぼろしの級友と話したりしてる。
そんな由紀の日常を、友人たちは現実を見せないようにして守ろうとしてるんだよね。
けど、見方を変えると、友人たちの目的は由紀の日常を守ることから、自分たちの日常を破錠させないことに変わっているように見える。由紀に対して今までどおり振る舞うことで、自分の日常を守っているという感じかな。現実をわかっているんだけど、あえて見ないようにしてる。周りを見れば自分の町がどうなってるかはおおよそ想像が着くんだけど、あえて考えないようにして日常を続けるように努めてる。
みんなが由紀を守っているんだけど、由紀もみんなを守っているっていう構造になってるよね。由紀がいなかったらゾンビに怯えるだけの生活になって、たぶんプール開きも遠足もなかったんじゃないかな。

ロメロ版『ゾンビ』との共通点

『がっこうぐらし!』に出てくるゾンビは正統派ゾンビだと思う。
噛まれると感染して人間を襲うのはもちろん、早く歩けないし、人間だった頃の習慣を繰り返すっていうところも描いてる。下校時間になれば家に帰るってのは、今までのゾンビものの解決方法にはないかもしれない。
人間関係も似てる。少人数での話だし、めぐねえがゾンビになるのと同じように、『ゾンビ』ではロジャーがゾンビになる。『ゾンビ』での冒頭の突入や、ヘリコプターでの移動シーンは、みーくんを助けるときにあとから振り返る形で描かれてるのがそれにあたるかな。
『ゾンビ』でショッピングモールを暴徒が襲うシーンに対応するものはないね。暴徒に襲われて逃げざるを得ないからショッピングモールから出て行くけど、『がっこうぐらし!』では卒業して出て行くんだよね。『ゾンビ』が時系列に従って描かれるのに対して、『がっこうぐらし!』は、学校ではじまり、学校で終わる。

ショッピングモール率

ショッピングモールは、『ゾンビ』で大きな位置を占める。
外は死者で溢れかえっているのだけれど、ショッピングモールのレストランで一人が給仕役となってワインをグラスに注いでまわるシーンがとても印象的だ。ワインなんて飲んでいる状況ではないんだけど、努めて平静を装って食事をしている。ショッピングモールを楽しんでいるときは、努めて現実を見ないようにしている。
『がっこうぐらし!』でも同じで、由紀のおかげで現実を直視しないですむようになっている。『がっこうぐらし!』は最初から最後まで『ゾンビ』のショッピングモールの時間を描こうとしてるんじゃないかと思う。もしそうだとしたら、ショッピングモール的なシーンが一番多いゾンビものになるだろう。
そして由紀の設定を取り入れたことは素晴らしい発明だと思う。

日常とはショピングモールなのか?

学園生活部のみんなの危機を救うために、由紀は現実と向き合うことになる。現実とは、学校内を徘徊している学生のゾンビたちであり、死んでしまっためぐねえのことだ。死と向き合うことで、学園生活部のみんなを死から守ることが出来るっていうことだろう。
そして終わらない日常は、卒業という形で終わりを迎える。
『ゾンビ』でショッピングモールから出る理由が暴徒によるものだったのに対し、『がっこうぐらし!』では自主的に学校を卒業する。現実と向き合えるようになった由紀の成長を表してるんだろう。
ゾンビが見えない由紀が、見えないまま終わったら物語の体を成さない。
『がっこうぐらし!』はたぶん今までで一番ショッピングモール率の高いゾンビものだと思う。
いつか最後までショッピングモールに居続けるゾンビものを見てみたい。