『ねじまき少女』の世界を理解するのは一筋縄ではいかなかった。とても複雑に思えたからだ。今の世界と大きく異なる点がいくつかあり、それらが相互に影響しあって絡み合っていて、それを解きほぐすのには骨が折れた。
タイ人と西洋人の対立
『ねじまき少女』の世界では、病原菌により特定の植物しか育てられなくなっている。舞台となっているタイでは環境省が輸入品を厳しく取締っているが、西洋人は病原菌に耐性のある食物でタイと取引をしている。多くの人が満足な食事が出来ていない状態だ。
病原菌の蔓延は石油燃料の枯渇とも関係があるのかもしれない。石油が枯渇したためエンジンは使えなくなり、地上での主な移動手段は人力車や自転車だ。エンジンのかわりとなる動力としてゼンマイを利用してもいる。ゼンマイなので利用するには巻く必要があるが、巻くのは遺伝子操作されたメゴドンドという動物の役割である。新しい動力を生み出すにはメゴドンドの餌となる食物が必要で、病原菌に耐性のある食物を作る企業はカロリー企業と呼ばれている。石油があった時代と比べると、効率的に利用できるエネルギーが少なく、不便な世界だ。
農作物を作る西洋人のカロリー企業が食品産業とエネルギー産業を一手に担っている。タイにある絶滅した植物の種子バンクを巡って、西洋人とタイ人が争っている格好になる。
少数派となり苦しむ中国人と日本人
タイ人と西洋人の他に中国人と日本人も描かれる。中国人はマレー半島で難民となりタイへ辿り着く。日本人と呼べるかわからないが、遺伝子操作で毛穴が見えないほどの肌をもつねじまき少女は日本製だ。ねじまき少女は遺伝子操作で動きがおかしく、主人に従順な性質を植え付けられている。
タイ人と西洋人の争いが中心に描かれている中で、少数派である中国人とねじまき少女は苦しみながらも、いかにして自分の人生を生きるかを見出していく。
パオロ・バチガルピの短編集『第六ポンプ』には『ねじまき少女』と同じ世界観をもつ「カロリーマン」と「イエローカードマン」が収録されている。もう少し世界観を理解するためにもそちらも読んでみよう。