2020年12月19日土曜日

寒ブリと熟成の関係

氷見に本ズワイガニを食べに行ったのだが、宿に着いてふと確認してみると一週間ほど前に寒ブリ宣言が出ていたことに気づいた。本ズワイカニに気を取られていてすっかり忘れていた。だが、宣言直後でなく、この「一週間ほど過ぎていた」ことで良いことがあった。

本ズワイカニを追加した夕食を頂いて大満足の「和風温泉元湯 叶」さんを後にして、富山の情報誌「Takt」に掲載されていた鮨屋へ昼食に向かった。

ブリの重さと熟成が大切

「今日のは13kg超えになります。」とブリの握りを出しながら氷見活魚鮨よしの大将は教えてくれた。重さだけで見れば14kgを超えたブリが良いとのことだが、型も味に影響するらしい。1kg少なくても太っていれば良いそうだ。「このブリは3日ほど熟成させています。熟成させると身の硬さが弱くなって、酢飯と一緒に口の中でほぐれるようになります。地元の人には硬いブリが好まれるんですが、寿司としては一緒にほぐれたほうが楽しんでいただけると思います。うちでは刺し身で出すなら身の硬い獲れたてのもの、寿司で出すなら熟成させたものと、料理によって使い分けています。」
富山にきていつも感じていた、ブリの身の硬さは新鮮さによるもののようだ。だからといって常に新鮮なものがいいとは限らない。

氷見活魚鮨よしさんのランチ

しらす、アオリイカ、ニシバイガイ、石鯛、ふくらぎ、宗太鰹、紅ズワイガニ、サバ、いくらの9貫に茶碗蒸しがついて2500円。ランチとは言えお得。追加で、クエと上述のブリをいただいた。紅ズワイガニの握りがシャリとカニの身が口の中でほぐれて旨い。

国道160号線から少しだけ入ったところにあるので、気軽に寄れて良いかもしれない。

やはり富山県は魚のレベルが高い。

2020年12月8日火曜日

上高地帝国ホテルに観光に行ってきた。

いつかは行きたいと思っていた上高地の帝国ホテルに宿泊してきた。GoToトラベル事業が良い政策とは考えていないが、利用させていただいた。感染者の少ない近隣県で食事に気をつけていれば感染する/させる確率は低いだろうと考えている。もちろん、それが感染を抑えるられるかはわからない。家にいたほうが間違いない。

宿泊したのは11月8日で紅葉も終わり山が白くなりかけていた頃。初めての上高地行きはさわんどバスターミナルから釜トンネルを抜けて行った。自家用車が入れないというのは環境を守りつつ非日常感を出すよくできた制度だと思う。特別な時間を過ごしているという気持ちが高ぶる。
そして帝国ホテル前のバス停で降りると赤い屋根の山小屋のようなかわいらしいホテルが迎えてくれた。

少し早く2時過ぎに着いたのだが、チェックインの際に5時からマントルピースの点火式が予定されていると伝えられる。河童橋への散歩から時間までに帰ってこれるように気をつけなければならない。
熊鈴を借りて河童橋へと続いている遊歩道を歩く。熊笹の茂る林の中を通れるよう、ボードウォークが整備されている。舗装された道路から少し離れているだけだが、どんよりとした天気も手伝って、動物と遭遇しないか気をつけながら歩く。陽が射していればもう少し自然の中の散歩を楽しめたかもしれない。
河童橋へ着くとそれなりに人手があった。
晴れ間が覗くのを待って、岳沢カールを入れて写真を撮影した。

梓川に沿ってホテルまで戻ると、マントルピースを囲むように多くの人が座って点火式を待っていた。
二人の方の進行で点火式が始まり、照明が落とされ、ふいごで火を起こしていく。ふいごに合わせて手拍子を繰り返し、火が起こったあたりで手拍子の速度は頂点に達した。点火によって、ホテルの夜が始まったという感じで、火を使ったこのようなイベントは満足度が高く、よく考えられたイベントだと感心した。このようなイベントが催されるホテルには泊まったことがない。
夕食までまだ時間があったので、マントルピースの下で燃える火を観ながら妻とビールで乾杯をした。

夕食はダイニングルームでコースをいただいた。こちらも素晴らしかった。
宿泊した客室ツインBはそれほど広くはないが、ソファでゆっくりくつろぐことも出来た。トイレと風呂は一緒だっただが、長いバスタブに横になることが出来リラックスできた。
夜中には星を観ることも出来たし、林の中からは獣の鳴き声が聞こえてきた。

翌日は早起きをして田代池へ向かうことにした。雪がちらついていたが濡れるほどではない。昨日の河童橋とは逆の方向となるが、再び遊歩道に入った。

朝7時過ぎと少し早い時間のためか人がいない。5日前にはこの付近で朝6時に子熊の目撃があったと注意をうながす看板がたっていた。熊鈴をズボンにつけていたが、不安になり手で鳴らしながら歩いた。すれ違った人は1人いたが、20分ほど歩いて田代池にたどり着いた。
大正4年(1915年)に最深で5mあった池は、土砂や草木の堆積物によって湿原になっているという。ただの小さな池なのだが、時間の流れを感じさせる。

ホテルに戻り、昨夜と同じダイニングルームで朝食をいただく。
二日間宿泊者たちを見たが40歳前半の私たち夫婦が最年少のように思える。平日の宿泊だったからかもしれない。
また歳を重ねて数十年後、帝国ホテルに宿泊したら何をするだろうか。きっと今回と同じように、河童橋を見て、点火式を見て、夕食を食べるだろう。それは私だけでなく、誰もがそうなのかもしれない。永遠というわけではないが、まだしばらくは同じような営みが繰り返されていくだろう。
そう思うと、映画『シャイニング』で記念撮影の写真の中に入ってしまった、ジャック・ニコルソン演じるジャックの気持ちがわかるような気がした。

2020年10月27日火曜日

プロジェクターのある生活

プロジェクターを買って5ヶ月が経った

エコポイントを利用して2010年に購入したREGZAが壊れて一週間後には、プロジェクターが家に届いていた。REGZAは10年頑張ってくれたことになる。
もともとプロジェクターを買おうという気はあまりなくて、テレビを買い直すのに抵抗があったというほうが正しい気がする。テレビ機能のないモニターを買うか、プロジェクターを買うかで悩んでいてプロジェクターに決めた。テレビを見る気がないならモニターよりはプロジェクターのほうが迫力がありそうだな程度の認識で決めたのだけど、間違いではなかったかな。

プロジェクター周りの環境

購入したプロジェクターはBenQ HT3050。

購入時に他と比較したり検討材料にしたのは明るさと台形補正。常に部屋を暗くして真剣に映画を観るばかりじゃないだろうし、電気をつけた部屋でもまあまあ見れれば助かるなという気持ちで。
あとは、スクリーンを設置する場所とプロジェクターを置く場所の候補は決めていたけど、それでうまく環境が整うかわからなかったので台形補正は上下左右できるものを選んだ。借家ということもありプロジェクターとスクリーンを正面に置けなかったので、台形補正は上下左右は必須だった。
ひとつ思っていたのと違ったのは、投影するスクリーンサイズを調整できないこと。なのでスクリーンからの距離で画面のサイズが変わるのでちょうどよい距離に置かないといけない。
スクリーンはニトリの幅180cm丈220cmの遮光ロールカーテンを取り付けた。

観てる環境

HDMI端子が2つあるので、1つにはAmazon Fire Stick TVを固定で挿してある。もう1つはchromecastとNintendoSwitch、ノートPCを必要に応じて差し替えて使ってる。
スピーカーとのBluetooth連携機能はないけど、FireTVStickで接続できるので不便はない。もともとのスピーカーでも許容範囲だと思う。夜一人で観る場合はヘッドフォンをBluetooth接続して観たりしている。
FireTVStickとchromecastがあればコンテンツを不満なく観ることが出来るんじゃないだろうか。
電気をつけたままでも、暗い場面でなければそれほど気にならず観れる。比較画像として参考になれば幸い。

テレビが欲しい気持ちは湧いてこない

テレビ番組がみたいときはTVerで観たりしている。知り合いがテレビに出るとか、近所がテレビの番組で特集されるよ、というときにはTVerの候補にないと困るけど、それほど不便は感じていない。
本当に必要になったらIO-DATAの「GV-NTX1A」などを買えば観れるようなので、そのときは買おうと思う。

2020年5月17日日曜日

陳楸帆の『荒潮』は変わらなさを描いている

この小説はいろいろな要素が入り組んでいて複雑に見える。だが、あらすじは複雑ではない。社会の最下層の人間が、事故によって超人的な能力を得るが、何も出来なかったというのがあらすじだろう。 では、何が複雑に見せているのかといえば、世界の設定が複雑に見せているのだろう。読んでいても本当に必要な設定なのか疑問に思うものも多かった。それでもその設定を小説に組み込むのだから、著者はそれが必要だと思っているのだろう。

物語の舞台となる固定された島の状況

物語は、米国からの廃棄物処理場と化している中国領シリコン島へ、ゴミのリサイクル業者の調査員がやってくるところから始まる。シリコン島の産業はすでにゴミのリサイクル事業で成り立っていて、送られてくる産業廃棄物を断る権利はなく、主体的に産業を選ぶことが出来ない状態が長く続いている。くわえて、島の御三家と呼ばれる有力者たちが廃棄物処理産業を牛耳っており、事実上島を治めている。いわゆる三すくみの状態でパワーバランスを保っており、変化が起こりにくい状態になっている。では、外部からの力が島を変える可能性はないのかと考えるが、島のネットワークは規制され、外部との接続が制限されている。 島は外部から役割を決められ、住む日々も固定的で、外からの変化も期待できない状況が舞台となっている。

米米に起こる変化と起こらない変化

シリコン島のゴミから資源を探し出すことを生業としいる、米米(ミーミー)は島外からの移民だ。半ば騙されるように島に来て、ゴミ人として固定された米米は島から抜け出せなくなっている。その米米に大きな変化が起きる。産業廃棄物に紛れ込んだウィルスによって超人的な力を得る。思考能力が高まり、意識を外部ネットワークに接続でき、果てはロボットの体を操ることまでできるようになる。やりたい放題だ。 そんな能力を手に入れても米米にはこの島と自分の運命を変えることが出来ない。固定して変化がない救いのない島を変えられる能力のように思えるのに、何も変えられない。どれほどの能力があっても個人の力では社会は変えられないということを描きたいのだろうか。変えられない設定は、島の成り立ちで徹底して描かれている。

そして突拍子のない提案をした。「世界を変えてみない?」スウッイーは言った。
陳 楸帆著,『荒潮』早川書房,2020,334頁

米米と恋に落ちた中国人青年が物語の最後に声をかけられるのが「世界を変えてみない?」というのが、この小説が変わること/変わらないことに注力していることを表していると思う。

2020年4月8日水曜日

Doon食堂印度山でタリーを食べた

白馬から松本観光へ

2020年3月8日、新型コロナウィルスの影響で自粛ムードが広がりつつある中、白馬へスノーボードに行った。日帰りで帰るつもりだったが、旅行客の減少のためか宿泊費が下がっていので、一日帰るのを遅らせて一泊していくことに決めた。その日の夜は、以前松本に来た際に改装中だった「オー・クリヨー・ド・ヴァン」へ行き、二軒目はホテルの近くの「So Bar 保科」へ。どちらのお店も良いお店で松本の街の充実度をよく感じられた。とくに「保科」でいただいた梅酒のいちごマティーニの、フレッシュないちごがグラスの中で潰される様を眺めているのはとても贅沢な時間だった。

翌朝は松本市が行っているレンタルサイクル事業すいすいタウン で自転車を借りて街中を散策した。松本美術館へ行きたかったが、新型コロナの影響で臨時休館だった。お昼をどうしようか探していたところ、Doon食堂印度山を見つけて自転車で向かった。

日本の中のインド亜大陸食紀行
小林 真樹
阿佐ヶ谷書院 (2019-05-17)

Doon食堂印度山へ

松本へは何度か来ているが、Doon食堂があるのは、今まで足を運んでいない地域だった。店の目の前には大きな魚屋もある。Doon食堂は、いくつかの店舗が集まった商業施設の中にあり少し見つけにくい。施設は昼間だったためもあるのか、開店していないお店がほとんどのようで、どこからどこまでがDoon食堂なのかがわからない。店主がいる建物と別の建物でも食事をしている人もいる。私達も店主とは別の建物へ案内された。

メニューから、チキンタリーとキーマカレーを1つずつ注文した。チキンタリーには豆のカレーも入るので、シェアすれば3種類のカレーが食べられる。

でき上がるのを待つまでに読むための本が壁際に何冊かおいてあり、その中から『日本の中のインド亜大陸食紀行』を手にとった。

チキンタリーを食べる

書籍の中のターリーの主食はチャパティのようだが、いただいたチキンタリーの主食はお米とパパドだった。そこに、豆のカレー、ヨーグルト、デザートのグラブジャムンがつく。単品のキーマカレーはお米をバスマティライスに変えてもらった。

インドで食べたどのカレーよりも美味しいと言って良いかもしれない。店主の出身地はデヘラドゥーンという地名で、渓谷を意味するドゥーンを店名につけたそうだ。

平野部であるデヘラドゥーンは、バスマティ米の品種の中でも優良品種の産地として有名で、バスマティ米は別名デヘラドゥーン・チャワール(デヘラドゥーンの米)と呼ばれるほどである。
小林真樹著,『日本の中のインド亜大陸食紀行』,阿佐ヶ谷書院,2019,221頁

ここまでパラパラするバスマティライスも食べたことがないのも、うなずける。

また行きたいのだが、まだまだ松本市には行ったことのない、美味しいお店がたくさんあるはずだ。松本市に行く際には、必ずランチ候補に入れていこう。

新型コロナウィルス禍が終息することを祈っています。

2020年3月19日木曜日

『ランニングする前に読む本』を読み終えて走り出した。

健康を気にする年齢になった

ここ数年の健康診断ではあまり良い結果が出ていない。原因はわかっている。
毎晩の楽しみのお酒だ。

診断結果を受け取りにいくたびに運動を進められるようになって、運動をしなければという気持ちが徐々に芽生えてきた。坂詰真二著『世界一やせるスクワット』を買って2日に一度のスクワットをはじめた。スクワット10回を3セット。しばらく続けてみたが体が軽くなったように感じる。こんな簡単な運動でも効果があるようだ。

効果が出たことを実感したら、もっと劇的な効果が欲しくなってきた。

もう少し運動をするならランニングしかない。プールにも通ったことはあるが、水着や移動の手間が多く長続きしなかった。ランニングなら家の近くの交通量の少ない道ですぐにはじめられそうだ。以前目にしたことがあって気になっていた『ランニングする前に読む本』を手にとった。

痩せるには

ダイエットのためであれば3章を読めば良いと目的別ガイドにはあるが、頭から読んでいった。他にはマラソンを走るためや、3時間を切るためにはどうすればよいかも書かれている。マラソンは走ったことがない自分には関係ないことだと思いながらも読み進めていくと、来年にはマラソンに挑戦してみようという気持ちになっている。

小さな楽しみを重ねていった結果としてマラソンを走ることが見えてくるから、自分にも出来そうな気になってくるのだろう。

たとえば体重が 60 ㎏の人の場合、速く走ろうがゆっくり走ろうが、1㎞走れば 60 を消費するということです。この推定法を使えば、ごく簡単にエネルギー消費量を計算できるので便利です。
田中宏暁著,『ランニングする前に読む本』,講談社, 2017,位置:330

脂肪1kgはカロリーに換算すると7200キロカロリーに値するらしい。時速6kmで1時間走ると体重60kgの人であれば300キロカロリーを消費するらしい。単純に計算するれば時速6kmで24時間走れば体重が1kg減らせるはずだ。もちろん数ヶ月の長い期間での話だけれども。

マラソンを走ってみたくなった

読む前は健康のために走るという目標だったのだけれど、本を読み進めていくうちにどんどん目標が変わっていった。フォアフット着地という走り方でニコニコおしゃべりできるペースで走っていくと、脂肪が燃焼してしまう。そして脂肪が燃焼した結果、体重が減るとマラソンの成績が良くなる。ニコニコペースで走ると、酸素の摂取能力も向上し、若返るという。体の中でエネルギーがどのように使われていくかまで解説されていて、とても科学的だ。

このように、小さな目標と得られる楽しみが数多く提示される。
ちょっとやってみようという気になって、何度か走ってみた。まだまだ習慣化されていないし、つづくかどうか先は見えない。
健康のためとマラソン完走のために続けていきたい。

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2020年3月11日水曜日

『へレディタリー/継承』した後にどう生きるか?

最寄りの映画館でアリ・アスター監督の『ミッドサマー』の上映が始まった。かと思ったら、どうやらすぐに上映終了してしまうようだ。前作『へレディタリー/継承』の評判も良いし観に行きたいが、前作もまだ観ていない。前作を観て準備万端で挑もうと映画を観る隙を伺うも、うちでホラー映画に興味があるのは私一人なのでなかなか機会が巡ってこなかった。先日ようやく観ることが出来た。

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妻が寝たあとで、灯りを消した部屋でヘッドホンをつけ、一度も映画を中断することなく観れたのは、自宅でホラーを観る環境としてはこれ以上ない条件だと思う。

怪現象の原因はなんなんだ?

ホラー映画では、必ず怖いことが起こる。では、怖いことは何故起きるのか。 その理由はそれぞれの映画によってさまざまであって良いのだと思うのだけど、この映画の特徴の一つは、怖いことが起こる理由が最後に明かされることだろう。 例えば、狂った一家に出会ったことがきっかけで恐ろしい目に遭うこともあれば、悪霊を復活させてしまうことで惨事に巻き込まれることもある。他にもこのように禁忌に触れることによって引き起こされる恐怖を描いた映画は多いが、いずれも禁忌を破った時点で怖さの原因が判明する。

最後に種明かしをする映画がないかといえばそうでもない。『シックス・センス』では最後の最後で主人公が恐ろしい目に会ってきた理由が明かされている。

原因が継承されている?

タイトルにもなっているように、もう一点の特徴は怖いことが起こる原因の継承の仕方だろう。

観る前には継承というタイトルから、祖母に取り憑いていた悪霊が家族の誰かに取り憑くものかと想像していた。想像していた内容と映画の内容とで、それほど相違はないように思えるが大きく違うのは、原因に捉えられたときに死ぬか否かの違いだ。殺人鬼であれ、悪霊であれ、狙われた人物は捉えられたときに殺される。そして殺人鬼の対象は次へと移る。しかしながら、この映画では捉えられたときに死ぬことが出来ない。

映画内では描かれていないが、捉えられた後に今までとまったく違う生き方を肯定的に捉えられなければ死ぬまで辛い時間を過ごすことになる。死が救いとならないのだ。

恐ろしいことが起こったその後

恐ろしいことが起きた。 今までと違った価値観を生きることになった。今までとは違うが、まわりには祖母と母もいる。そのような今まで想像もしなかった環境に置かれたとき、どのように生きていくか、そう問いかけるような映画ではないだろうか。

2020年2月27日木曜日

『ドゥ・ザ・ライト・シング』を観ても、正しいことがわからない。

スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』を観た。図書館にあった『ユリイカ2019年5月号 特集=スパイク・リー』を手にとったことがきっかけだ。

映画の話になれば名前をよく耳にするが、実際にどんな人でどんな映画を撮る人なのかまったく知らない。最近撮った映画は話題になっているようだ。その『ブラッククランズマン』も明らかに人種問題をテーマとしているし、どうやら過去の作品から一貫して人種問題をテーマにしているようである。いきなり最新のものを観るのではなく少し遠回りにはなるが、理解を深めるため、過去のものから観はじめたというわけだ。

あらすじ

ドゥ・ザ・ライト・シング (字幕版)
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舞台はブルックリン。イタリア系アメリカ人のピザ屋で働く主人公の黒人青年ムーキーは、ピザの配達に行くたびに寄り道をしてばかりだ。街にいるのは、缶ビールを飲みながらうろついている市長というあだ名の男、ラジカセでパブリック・エネミーの「Fight the Power」を爆音で流しながら生活しているラジオ・ラヒーム、ピザ屋の壁に黒人の写真が飾られていないと怒るバギンなどなど、と一癖ある人々ばかりだ。

うだるような暑さの日、通りに住む人々は、小さな諍いを起こしながらも、それぞれ自由に生活をして平和に暮らしている。だが、その中の一つの小さな出来事から起こった諍いが人種間の問題に発展し、止めに入った警察による過剰な暴力で、取り返しがつかない事態が引き起こされてしまう。

強いメッセージ

この映画のタイトルの言葉は酔っ払いの市長からムーキーに向けて語られる。

"Always do the right thing."

登場する人物全員がみな常に正しいことをしていると思って生きているようにみえる。みんなの正しさの積み重ねが悲劇につながっていくのは避けようのないことなのか。それとも、常に流れているパブリック・エネミーの「Fight the Power」が象徴するように権力と戦えば悲劇は避けられるのか。

映画の終わりにラジオから、昨夜の騒ぎの原因を調査して同様の事件の再発防止を防ぐというNY市長の談話が聞こえてくる。

原因は私にはまだわからない。もう少しスパイク・リー監督の作品を観てみようと思う。

「 
2020年2月16日日曜日

Amazon の AWS IoT ボタンを玄関チャイムにしてみた

引っ越して来たときから、今住んでいる貸家には玄関チャイムがついていなかった。ほとんど訪ねて来る人はいないのだけれど、たまに郵便局の人が来た。「郵便でーす!」と配達の人が声をかけてくれるのが申し訳なくて中国製のチャイムを取り付けたのだけど、一年ほどで鳴らなくなってしまった。改めてAmazonでチャイムを探すも中国製、日本製を問わず、後付のチャイムで定番の品がないようだった。 また口コミを読んでいるとどれを買ってもすぐに壊れそうな気がしてくる。なんだかどれも買えなくなってそれならば自分でチャイムの仕組みを作ろうと、AWS Iot ボタンをポチった。

玄関チャイムの構成

AWS IoT ボタンを有効にするには、AWS上でIoTボタン用のプロジェクトを作成し、色々と設定する必要がある。少し手間取ったけれど、ちょっとググるだけで詰まったりせずに設定できた。 プロジェクト内のテンプレートでボタンが押されたら呼び出すLambda関数を設定して、このテンプレートに設定する物理的なボタンをプレイスメントで紐付けてあげるような仕組みのようだ。 プロジェクトまわりの設定については、こちらのドキュメントの「ThumbsUp」と「ThumbsDown」の例がわかりやすい。

ここまでできれば後はLambda関数でIFTTTのWebhookを呼び出すだけだ。

import urllib.request

url = 'https://maker.ifttt.com/trigger/{event}/with/key/XXXXXXXX'

def lambda_handler(event, context):
    req = urllib.request.Request(url)
    with urllib.request.urlopen(req) as res:
        body = res.read()

全体としては以下のような構成というか、呼び出し順になっている。

IFTTTでは、Webhookが呼び出されたときに、LINE通知をするように設定した。

設置してみた

そのままボタンを玄関に設置しても、訪問者がなんだかわからない可能性が高い気がしたので、テプラで玄関チャイムだとわかるような絵文字を選んでシールを貼り付けた。ボタンを押すとLEDが点滅してから、呼び出し成功の緑に変わるまで少し間があるがなんとか使えている。

何よりも押されたときにログが残ることと、家にいないときでも通知が来ることが便利だ。家の近くで仕事をしている私のような人には荷物を受け取りに家まで戻ることも出来てしまう。

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2020年2月7日金曜日

ETV特集『人知れず 表現しつづける者たち iii』を観て。

NHKで放送されていた『人知れず 表現しつづける者たち iii』を観た。少し前に再放送されていた『i』と『ii』をたまたま観たおかげで、この放送を知ることが出来た。たしか『i』で言及されていたが、放送で取り上げられている作品は、アール・ブリュット展に展示されている。「アール・ブリュット(生の芸術)」、まったく知らない言葉だった。

アール・ブリュットとは、既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作された芸術作品の意味で、 英語ではアウトサイダー・アートと称されている。

放送の中では、それぞれの作者は一様に、楽しそうに作品を作っているように映っていた。

誤解としての芸術:アール・ブリュットと現代アート
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芸術の見かた

もう10年近く前になるが村上隆の『芸術起業論』を読んでから、芸術に対する考え方が変わった。そこには、芸術は既存の文脈の上に築かれるものであるということが繰り返し書かれていた。過去の芸術作品に対して、自分の作品が新たに追加されることで既存の文脈が変わる。この考え方に触れるまでは、芸術は感性で見るものだと思っていたし、その見方しか知らなかった。

「既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作されている」というアール・ブリュットは、村上隆の考え方では鑑賞するとっかかりがない。もちろん、どちらの考え方が正しいのかという問題ではなく、どちらの作品のほうが価値があるのかという問題でもない。文脈を考えて作品を作ったほうが、人に知ってもらい評価される機会が増えるという話なだけだ。

どう見たのか

では何にどう惹かれて見たのかということになる。

昔なら同じテーマについて何年も描き続ける情熱に感嘆していたかもしれない。情熱は内から出てくるものだと思っていたから。だが、最近は少し違う気がする。何年も描き続けるのは、何かに囚われているからではないか。抜け出したいのか抜け出したくないのかもわからないが、何かに囚われているような気配は感じる。

その囚われた感じを感じることができるのは、アール・ブリュットのような気がした。

アール・ブリュットの本を読んでみたくなった。

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2020年1月30日木曜日

寒ブリと回遊について

寿司屋でおまかせ握りを頼んだ際に「味比べをしてください」とブリとマグロの二貫を同時に出していただいたことがあった。そのブリには大トロのまぐろに負けないほど脂がのっていて、色も白く今まで食べていたブリとは全く違った。ブリは今北海道にいて、これから日本海を南下するための栄養を蓄えているから脂がのっているんです、と教えていただいた。10kg超えですよ、と。11月頭のことだ。これから佐渡の寒ブリも美味しくなるから時期になったらまた来てくださいと寿し鉄の大将は笑っていた。

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回遊について

しばらくその会話のことは忘れていたのだが、ニュースでひみ寒ブリ宣言が出たことを聞いて、その時のことを思い出した。ここ数年、冬には富山へブリを食べに行くほどこだわりがあるのに、ブリの知識がないのはもったいない。ぶりのことをよく知ってから味わえばより深く味わえるはずである。
検索してみると、福井県水産試験場の資料がすぐに見つかった。そこには、平成13年から富山・石川・福井の北陸三県が合同で平成13年から4年間に渡りブリの回遊調査を行った結果がまとめられていた。*1
3歳を超えたブリは、3月から5月の間、九州付近で産卵を行い、5月くらいから日本海を北上し、夏と秋の間を北海道付近で過ごす。11月に入り水温が下がると再び九州へと南下する。北海道で太ったブリを南下する途中で捕えたものが寒ブリとなるようである。

味について

ブリの回遊についてはわかった。では、寒ブリが重宝される根拠はあるのかというのが気になってくる。いくつか資料を見ていると、独立行政法人水産総合研究センターの資料が目に止まった。*2

ブリは刺身素材としても脂の多い魚として評判が高く、大きくなるほど、さらに冬場になると一般に脂質含量が高く、いわゆる脂がのった状態となります。加えて、回遊するパターンによっても脂ののりが異なるとされ、寒ブリ シーズンの12月に佐渡で漁獲したブリ(北方まで大きく 回遊して栄養豊富な寒流の混ざる海域で育ったブリ)と、同じ時期に対馬で漁獲したブリ(南方海域に定着して育ったブリ)を比較すると、佐渡で漁獲されたブリは対馬で漁獲されたブリよりも脂質含量が高い傾向があります。日本海中部で漁獲される寒ブリが珍重される理由は明らかです。
飯田貴次、出世魚ブリの魅力 -大衆のための高級魚-

これを信じるならば、回遊によって味にも違いが出るようだ。
長い距離を泳いでいるから、寒ブリは身が締まった感じがするのだろうか。そこへ言及している資料はまだ見つかっていないが、また気になったときに探してみよう。

*1 日本海における大型ブリの動き
*2 出世魚ブリの魅力 -大衆のための高級魚-

2020年1月13日月曜日

『ムーンライト』を観て感じた生きづらさ

いつからかLGBTという言葉を耳にするようになり、LGBTをテーマにしたコンテンツを目にする機会も増えた。昨年、2019年には『きのう何食べた?』や『おっさんずラブ』など、LGBTを主人公にしたドラマが放送されて好評を博していた。異なる価値観に寛容な社会が求められるようになっていると、テレビやラジオに触れていても肌で感じる。

映画のあらすじ

ムーンライト(字幕版)
(2017-08-16)
売り上げランキング: 1,438

『ムーンライト』は、2016年の映画。アメリカに住む黒人の少年が主人公だ。麻薬中毒の母親を持ち、学校でオカマと罵られて仲間にも馴染めていない少年が、成長していく様子を3つの時代に分けて描いている。

幼少期、家庭に居場所のない主人公シャロンに、麻薬の売人フアンが救いの手を伸ばす。いじめにあって逃げていたシャロンにご飯を食べさせ、家に帰りたくないならと恋人と住む家に一晩泊める。その後も、シャロンはフアンの家を訪れるようになり、泳ぎを教えてもらうなど信頼関係を築けているように見える。だが、シャロンの母親はフアンから薬を買っていて、うまく関係を築けない。

学校に馴染めない少年期、シャロンの友人と呼べるのはケヴィンくらい。まわりからはオカマと罵られている。ケヴィンは、シャロンの悩みの相談に乗ることもなく、悩みにも気づかないタイプで、シャロンと深い信頼関係を築いているわけではない。ある晩、シャロンとケヴィンは大麻を吸った勢いで砂浜で性的な関係を持ってしまう。しばらくたった後、学校で周囲に強制されて、ケヴィンはシャロンを殴り、関係は壊されてしまう。

青年期、突然ケヴィンから電話があり、ケヴィンの勤めるレストランで久しぶりに再会することになる。ケヴィンは女性と結婚し子供をもうけたことを告げ、いつも持ち歩いている子供の写真を見せる。(ケヴィンは昔と変わらず相手の気持ちを読まない。)シャロンは自分がフアンと同じ麻薬の売人になったこと、性的な関係を持ったのはケヴィンただひとりだということを告げる。

たぶん映画の伝えたいこと

シャロンは2つの公に出来ない事柄を抱えている。麻薬の売人であることと、ゲイであるということだ。シャロンにとって、自分の本心を表に出さないことは、当たり前のことなのかもしれない。タイトルが示すように、本心を出せるのは月夜の下だけなのだろう。
誰にも本心を相談出来ないことで、シャロンは狭い世界を生きて来たように見える。ケヴィンにそれらを話して相談に乗ってもらうことでシャロンには自由に生きて欲しい。

2020年1月11日土曜日

年末の締めに『鮨 希味』に入ってみた。

年末に一日だけ忘年会の予定のない日が出来た。ここ数年、亀のお世話をする替わりに年末に帰省する友人宅へ宿泊させてもらっている。そのときはいつも都内に来たのだから友人と食事をしようという流れになっていた。いずれの友人とも予定が合わず、夫婦二人で飲みに行く機会はしばらくなかった。久しぶりに気軽に飲みに行けるので心が弾んだ。

体調が悪ければ家でゆっくりすることもあるので事前にお店は決めていない。近くのお店を探すが、年末年始で休みの店が多い。そば屋のような年末らしいお店はやっているのではと探してみると、大森駅前に最近出来たという寿司屋を見つけた。

自転車で行ってみると『鮨 希味』と大きな赤い看板が掲げられていた。店の前には今日のおすすめの書かれた立て看板が出ていて、揚げ物などの一品料理も書かれている。料金も予算内に納まりそうだ。入ることに決めた。

扉をくぐると白木のカウンターに案内された。カウンター10席ほどに、テーブル席が2卓。2階もあるようで宴会もできるのかも知れない。30代と50代の二人の板前さんで店を切り盛りしているようだ。先客は3組ほど。壁には握りと日本酒のメニューが掛けられている。

プレミアムモルツで乾杯して、お通しの牛乳寒天をつまみに飲んでいると、お願いしていた刺し盛りが来た。車海老が入っているのが嬉しい。年末最後にこの店を選んで正解だったと確信した。

日本酒に切り替えた。各地の日本酒があったが〆張り鶴にした。体を温めてくれる温かいものも食べたくなり、カキフライもいただいた。寿司を握ってもらおうという段になり、品定めをする。幸いなことにすべての寿司に値段が書かれている。それでは、好きなものを食べるだけではつまらないからと、一人が頼める値段の上限を1000円と決めて、各々プランを組み立てながら注文する。妻はウニを頼むなど、一点豪華主義。私はアジやコハダを頼むなどコスパ重視。結局上限を少し超えるも、米が口の中でほどける寿司を味わうことが出来た。

目の前で板前さんに握ってもらって、お酒こみで一人5000円ほど。ぜひまた伺いたい。その後はプラプラしていると『蔦八』さんが営業していたので煮込みとビールで楽しんだ。